Git フック

他のバージョンコントロールシステムと同じように、Gitにも特定のアクションが発生した時にスクリプトを叩く方法があります。フックはクライアントサイドとサーバーサイドの二つのグループに分けられます。クライアントサイドフックはコミットやマージといったクライアントでの操作用に、サーバーサイドフックはプッシュされたコミットを受け取るといったサーバーでの操作用に利用されます。これらのフックをさまざまなな理由に用いることができます。ここではそのうちのいくつかをご紹介しましょう。

フックをインストールする

フックはGitディレクトリのhooksサブディレクトリに格納されています。一般的なプロジェクトでは、.git/hooksがそれにあたります。Gitはデフォルトでこのディレクトリに例となるスクリプトを生成します。それらの多くはそのままでも十分有用ですし、引数も記載されています。全ての例は基本的にシェルスクリプトで書かれています。いくつかPerlを含むものもありますが、適切に命名されたそれらの実行可能スクリプトはうまく動きます。RubyやPython等で自作していただいてもかまいません。それらのフックファイルの末尾は.sampleとなっていますので適時リネームしてください。

フックスクリプトを有効にするには、Gitディレクトリのhooksサブディレクトリに適切な名前の実行可能なファイルを配置する必要があります。これによってファイルが呼び出されることになります。ここでは重要なフックファイル名をいくつか取り上げます。

クライアントサイドフック

クライアントサイドフックにはたくさんの種類があります。ここではコミットワークフローフック、Eメールワークフロースクリプト、その他クライアントサイドフックに分類します。

コミットワークフローフック

最初の4つのフックはコミットプロセスに関するものです。pre-commitフックはコミットメッセージが入力される前に実行されます。これはいまからコミットされるであろうスナップショットを検査したり、何かし忘れた事を確認したり、事前にテストを実行したり、何かしらコードを検査する目的で使用されます。git commit --no-verifyで回避することもできますが、このフックから0でない値が返るとコミットが中断されます。コーディングスタイルの検査(lintを実行する等)や、行末の空白文字の検査(デフォルトのフックがまさにそうです)、新しく追加されたメソッドのドキュメントが正しいかどうかの検査といったことが可能です。

prepare-commit-msgフックは、コミットメッセージエディターが起動する直前、デフォルトメッセージが生成された直後に実行されます。コミットの作者がそれを目にする前にデフォルトメッセージを編集することができます。このフックはオプションを必要とします: 現在までのコミットメッセージを保存したファイルへのパス、コミットのタイプ、さらにamendされたコミットの場合はコミットSHA-1が必要です。このフックは普段のコミットにおいてあまり有用ではありませんが、テンプレートのコミットメッセージ・mergeコミット・squashコミット・amendコミットのようなデフォルトメッセージが自動で挿入されるコミットにおいて効果を発揮します。テンプレートのコミットメッセージと組み合わせて、動的な情報をプログラムで挿入することができます。

commit-msgフックも、現在のコミットメッセージを保存した一時ファイルへのパスをパラメータに持つ必要があります。このスクリプトが0以外の値を返した場合Gitはコミットプロセスを中断しますので、プロジェクトの状態や許可待ちになっているコミットメッセージを有効にすることができます 。この章の最後のセクションでは、このフックを使用してコミットメッセージが要求された様式に沿っているか検査するデモンストレーションを行います。

コミットプロセスが全て完了した後に、post-commitフックが実行されます。パラメータは必要無く、git log -1 HEADを実行することで直前のコミットを簡単に取り出すことができます。一般的にこのスクリプトは何かしらの通知といった目的に使用されます。

コミットワークフロークライアントサイドスクリプトはあらゆるワークフローに使用することができます。clone中にスクリプトが転送される事はありませんが、これらはしばしばサーバー側で決められたポリシーを強制する目的で使用されます。これらのスクリプトは開発者を支援するために存在するのですから、いつでもオーバーライドされたり変更されたりすることがありえるとしても開発者らによってセットアップされ、メンテナンスされてしかるべきです。

Eメールワークフローフック

Eメールを使ったワークフロー用として、三種類のクライアントサイドフックを設定することができます。これらはすべて git am コマンドに対して起動されるものなので、ふだんの作業でこのコマンドを使っていない場合は次のセクションを読み飛ばしてもかまいません。git format-patch で作ったパッチを受け取ることがある場合は、ここで説明する内容が有用になるかもしれません。

まず最初に実行されるフックは applypatch-msg です。これは引数をひとつだけ受け取ります。コミットメッセージを含む一時ファイル名です。このスクリプトがゼロ以外の値で終了した場合、Git はパッチの処理を強制終了させます。このフックを使うと、コミットメッセージの書式が正しいかどうかを確認したり、スクリプトで正しい書式に手直ししたりすることができます。

git am でパッチを適用するときに二番目に実行されるフックは pre-applypatch です。これは引数を受け取らず、パッチが適用された後に実行されます。このフックを使うと、パッチ適用後の状態をコミットする前に調べることができます。つまり、このスクリプトでテストを実行したり、その他の調査をしたりといったことができるということです。なにか抜けがあったりテストが失敗したりした場合はスクリプトをゼロ以外の値で終了させます。そうすれば、git am はパッチをコミットせずに強制終了します。

git am において最後に実行されるフックは post-applypatch です。これを使うと、グループのメンバーやそのパッチの作者に対して処理の完了を伝えることができます。このスクリプトでは、パッチの適用を中断させることはできません。

その他のクライアントフック

pre-rebase フックは何かをリベースする前に実行され、ゼロ以外を返すとその処理を中断させることができます。このフックを使うと、既にプッシュ済みのコミットのリベースを却下することができます。Gitに含まれているサンプルの pre-rebase フックがちょうどこの働きをします。ただしこのサンプルは、公開ブランチの名前が next であることを想定したものです。実際に使っている安定版公開ブランチの名前に変更する必要があるでしょう。

git checkout が正常に終了すると、post-checkout フックが実行されます。これを使うと、作業ディレクトリを自分のプロジェクトの環境にあわせて設定することができます。たとえば、バージョン管理対象外の巨大なバイナリファイルや自動生成ドキュメントなどを作業ディレクトリに取り込むといった処理です。

最後に説明する post-merge フックは、merge コマンドが正常に終了したときに実行されます。これを使うと、Git では追跡できないパーミッション情報などを作業ツリーに復元することができます。作業ツリーに変更が加わったときに取り込みたい Git の管理対象外のファイルの存在確認などにも使えます。

サーバーサイドフック

クライアントサイドフックの他に、いくつかのサーバーサイドフックを使うこともできます。これは、システム管理者がプロジェクトのポリシーを強制させるために使うものです。これらのスクリプトは、サーバへのプッシュの前後に実行されます。pre フックをゼロ以外の値で終了させると、プッシュを却下してエラーメッセージをクライアントに返すことができます。つまり、プッシュに関するポリシーをここで設定することができるということです。

pre-receive および post-receive

クライアントからのプッシュを処理するときに最初に実行されるスクリプトが pre-receive です。このスクリプトは、プッシュされた参照のリストを標準入力から受け取ります。ゼロ以外の値で終了させると、これらはすべて却下されます。このフックを使うと、更新内容がすべてfast-forwardであることをチェックしたり、プッシュしてきたユーザーがそれらのファイルに対する適切なアクセス権を持っているかを調べたりといったことができます。

post-receive フックは処理が終了した後で実行されるもので、他のサービスの更新やユーザーへの通知などに使えます。pre-receive フックと同様、データを標準入力から受け取ります。サンプルのスクリプトには、メーリングリストへの投稿や継続的インテグレーションサーバーへの通知、チケット追跡システムの更新などの処理が含まれています。コミットメッセージを解析して、チケットのオープン・修正・クローズなどの必要性を調べることだってできます。このスクリプトではプッシュの処理を中断させることはできませんが、クライアント側ではこのスクリプトが終了するまで接続を切断することができません。このスクリプトで時間のかかる処理をさせるときには十分注意しましょう。

update

update スクリプトは pre-receive スクリプトと似ていますが、プッシュしてきた人が更新しようとしているブランチごとに実行されるという点が異なります。複数のブランチへのプッシュがあったときに pre-receive が実行されるのは一度だけですが、update はブランチ単位でそれぞれ一度ずつ実行されます。このスクリプトは、標準入力を読み込むのではなく三つの引数を受け取ります。参照 (ブランチ) の名前、プッシュ前を指す参照の SHA-1、そしてプッシュしようとしている参照の SHA-1 です。update スクリプトをゼロ以外で終了させると、その参照のみが却下されます。それ以外の参照はそのまま更新を続行します。

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