リベース

Git には、あるブランチの変更を別のブランチに統合するための方法が大きく分けて二つあります。mergerebase です。このセクションでは、リベースについて「どういう意味か」「どのように行うのか」「なぜそんなにもすばらしいのか」「どんなときに使うのか」を説明します。

リベースの基本

マージについての説明で使用した例を振り返ってみましょう (図 3-27 を参照ください)。作業が二つに分岐しており、それぞれのブランチに対してコミットされていることがわかります。

図 3-27. 分岐したコミットの歴史

このブランチを統合する最も簡単な方法は、先に説明したように merge コマンドを使うことです。これは、二つのブランチの最新のスナップショット (C3 と C4) とそれらの共通の祖先 (C2) による三方向のマージを行い、新しいスナップショットを作成 (そしてコミット) します。その結果は図 3-28 のようになります。

図 3-28. 分岐した作業履歴をひとつに統合する

しかし、別の方法もあります。C3 で行った変更のパッチを取得し、それを C4 の先端に適用するのです。Git では、この作業のことを リベース (rebasing) と呼んでいます。rebase コマンドを使用すると、一方のブランチにコミットされたすべての変更をもう一方のブランチで再現することができます。

今回の例では、次のように実行します。

$ git checkout experiment
$ git rebase master
First, rewinding head to replay your work on top of it...
Applying: added staged command

これは、まずふたつのブランチ (現在いるブランチとリベース先のブランチ) の共通の先祖に移動し、現在のブランチ上の各コミットの diff を取得して一時ファイルに保存し、現在のブランチの指す先をリベース先のブランチと同じコミットに移動させ、そして先ほどの変更を順に適用していきます。図 3-29 にこの手順をまとめました。

図 3-29. C3 での変更の C4 へのリベース

この時点で、master ブランチに戻って fast-forward マージができるようになりました (図 3-30 を参照ください)。

図 3-30. master ブランチの Fast-forward

これで、C3' が指しているスナップショットの内容は、先ほどのマージの例で C5 が指すスナップショットと全く同じものになりました。最終的な統合結果には差がありませんが、リベースのほうがよりすっきりした歴史になります。リベース後のブランチのログを見ると、まるで一直線の歴史のように見えます。元々平行稼働していたにもかかわらず、それが一連の作業として見えるようになるのです。

リモートブランチ上での自分のコミットをすっきりさせるために、よくこの作業を行います。たとえば、自分がメンテナンスしているのではないプロジェクトに対して貢献したいと考えている場合などです。この場合、あるブランチ上で自分の作業を行い、プロジェクトに対してパッチを送る準備ができたらそれを origin/master にリベースすることになります。そうすれば、メンテナは特に統合作業をしなくても単に fast-forward するだけで済ませられるのです。

あなたが最後に行ったコミットが指すスナップショットは、リベースした結果の最後のコミットであってもマージ後の最終のコミットであっても同じものとなることに注意しましょう。違ってくるのは、そこに至る歴史だけです。リベースは、一方のラインの作業内容をもう一方のラインに順に適用しますが、マージの場合はそれぞれの最終地点を統合します。

さらに興味深いリベース

リベース先のブランチ以外でもそのリベースを再現することができます。たとえば図 3-31 のような歴史を考えてみましょう。トピックブランチ (server) を作成してサーバー側の機能をプロジェクトに追加し、それをコミットしました。その後、そこからさらにクライアント側の変更用のブランチ (client) を切って数回コミットしました。最後に、server ブランチに戻ってさらに何度かコミットを行いました。

図 3-31. トピックブランチからさらにトピックブランチを作成した歴史

クライアント側の変更を本流にマージしてリリースしたいけれど、サーバー側の変更はまだそのままテストを続けたいという状況になったとします。クライアント側の変更のうちサーバー側にはないもの (C8 と C9) を master ブランチで再現するには、git rebase--onto オプションを使用します。

$ git rebase --onto master server client

これは「client ブランチに移動して client ブランチと server ブランチの共通の先祖からのパッチを取得し、master 上でそれを適用しろ」という意味になります。ちょっと複雑ですが、その結果は図 3-32 に示すように非常にクールです。

図 3-32. 別のトピックブランチから派生したトピックブランチのリベース

これで、master ブランチを fast-forward することができるようになりました (図 3-33 を参照ください)。

$ git checkout master
$ git merge client

図 3-33. master ブランチを fast-forward し、client ブランチの変更を含める

さて、いよいよ server ブランチのほうも取り込む準備ができました。server ブランチの内容を master ブランチにリベースする際には、事前にチェックアウトする必要はなく git rebase [basebranch] [topicbranch] を実行するだけでだいじょうぶです。このコマンドは、トピックブランチ (ここでは server) をチェックアウトしてその変更をベースブランチ (master) 上に再現します。

$ git rebase master server

これは、server での作業を master の作業に続け、結果は図 3-34 のようになります。

図 3-34. server ブランチを master ブランチ上にリベースする

これで、ベースブランチ (master) を fast-forward することができます。

$ git checkout master
$ git merge server

ここで client ブランチと server ブランチを削除します。すべての作業が取り込まれたので、これらのブランチはもはや不要だからです。これらの処理を済ませた結果、最終的な歴史は図 3-35 のようになりました。

$ git branch -d client
$ git branch -d server

図 3-35. 最終的なコミット履歴

ほんとうは怖いリベース

あぁ、このすばらしいリベース機能。しかし、残念ながら欠点もあります。その欠点はほんの一行でまとめることができます。

公開リポジトリにプッシュしたコミットをリベースしてはいけない

この指針に従っている限り、すべてはうまく進みます。もしこれを守らなければ、あなたは嫌われ者となり、友人や家族からも軽蔑されることになるでしょう。

リベースをすると、既存のコミットを破棄して新たなコミットを作成することになります。新たに作成したコミットは破棄したものと似てはいますが別物です。あなたがどこかにプッシュしたコミットを誰かが取得してその上で作業を始めたとしましょう。あなたが git rebase でそのコミットを書き換えて再度プッシュすると、相手は再びマージすることになります。そして相手側の作業を自分の環境にプルしようとするとおかしなことになってしまします。

いったん公開した作業をリベースするとどんな問題が発生するのか、例を見てみましょう。中央サーバーからクローンした環境上で何らかの作業を進めたものとします。現在のコミット履歴は図 3-36 のようになっています。

図 3-36. リポジトリをクローンし、なんらかの作業をすませた状態

さて、誰か他の人が、マージを含む作業をしてそれを中央サーバーにプッシュしました。それを取得し、リモートブランチの内容を作業環境にマージすると、図 3-37 のような状態になります。

図 3-37. さらなるコミットを取得し、作業環境にマージした状態

次に、さきほどマージした作業をプッシュした人が、気が変わったらしく新たにリベースし直したようです。なんと git push --force を使ってサーバー上の歴史を上書きしてしまいました。あなたはもう一度サーバーにアクセスし、新しいコミットを手元に取得します。

図 3-38. 誰かがリベースしたコミットをプッシュし、あなたの作業環境の元になっているコミットが破棄された

ここであなたは、新しく取得した内容をまたマージしなければなりません。すでにマージ済みのはずであるにもかかわらず。リベースを行うとコミットの SHA-1 ハッシュが変わってしまうので、Git はそれを新しいコミットと判断します。実際のところ C4 の作業は既に取り込み済みなのですが (図 3-39 を参照ください)。

図 3-39. 同じ作業を再びマージして新たなマージコミットを作成する

今後の他の開発者の作業を追いかけていくために、今回のコミットもマージする必要があります。そうすると、あなたのコミット履歴には C4 と C4' の両方のコミットが含まれることになります。これらは SHA-1 ハッシュが異なるだけで、作業内容やコミットメッセージは同じものです。このような状態の歴史の上で git log を実行すると、同じ人による同じ日付で同じメッセージのコミットがふたつ登場することになり、混乱します。さらに、この歴史をサーバーにプッシュすると、リベースしたコミットを再び中央サーバーに戻すことになってしまい、混乱する人がさらに増えます。

リベースはあくまでもプッシュする前のコミットをきれいにするための方法であるととらえ、リベースするのはまだ公開していないコミットのみに限定するようにしている限りはすべてがうまく進みます。もしいったんプッシュした後のコミットをリベースしてしまい、どこか他のところでそのコミットを元に作業を進めている人がいたとすると、やっかいなトラブルに巻き込まれることになるでしょう。

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